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2008年5月12日 (月)

私の読書感想文

「死ぬことと見つけたり」隆慶一郎作、新潮文庫上下巻

佐賀鍋島藩に伝わる武士道「葉隠」を独自の解釈で書いたこの物語を、私はもう何回も読んでいます。鍋島武士独特の心の鍛錬法である、毎朝様々な死に方を詳細に思念、つまりイメージトレーニングし、死の場面にうろたえない稽古を続ける鉄砲の達人杢之助、切腹を命ぜられるほど殿様から憎まれた家老を父に持ち、自分も家老に出世して殿様にモノを言おうと目指す求馬、江戸でけんか相手を斬り殺して浪人させられた萬右衛門、・・・この、平気で人を斬れる男たちが繰り広げる騒動を軽妙に表現した文章は、読む毎に人間社会の「生き方」を思わせられ、読後暫くするとまた読み始めてしまいます。

困窮すると平気で藩の年貢行列を襲撃する父を持つ杢之助は、萬右衛門、求馬と組むと大活躍です。老中松平伊豆守が鍋島藩取り潰しに動けば陰に陽に命を狙って老中を怯えさせ、遊郭吉原でけんかを売られれば相手の旗本奴を切り捨て、天領長崎の町年寄高木彦右衛門の「男の急所」を銃撃し、ついには高木屋敷を襲撃させる、嵐の海で破船寸前の殿の御座船を救ってみたりと、急展開する事態に思わず頁が進みます。それでいて物語は決して殺伐としておらず、杢之助の忍ぶ恋や、女郎屋の禿の涙に肩入れしたりと、温かみのあるところもあって、読む毎に彼らの心を新発見する感じがします。

勤め人はこの本を読むと勇気百倍と思います。杢之助たちは嵐の船で殿様を平気で欄干に縛りつけたり、気弱になった殿様に「当たり前です。殿は負ぶさるほうではなく、おぶう方です」とか「殿は老いぼられた」と言って憚らない。私は読後、「上司を補佐する、ということは決して耳快いことを言うことではない!」との思いを強くしました。

作者の隆さんが完成前に亡くなり、未完で終わったことが惜しまれます。傍若無人で心優しい杢之助たちの最期はどうなったのか読みたかったのに、残念です。

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